2009年度読書録


 

『実録広島極道刑事』(大下英治:著)

徳間文庫:2009年8月15日初版発行

 

『仁義なき戦い』で有名になった広島のヤクザ抗争を、破天荒な刑事を通して描いた実録小説ね。主人公が全ての事件に関わっているわけでなく、伝聞的なところも多々あります。本人への取材をもとに、既存の広島ヤクザ抗争史料を参照にして肉付けしている感じです。ドラマ的盛り上がりはありませんが、広島弁に郷愁を感じて一気に読んでしましました。

 

『ブリムストーンの激突』(ロバート・B・パーカー:著、山本博:訳)

早川書房:2009年10月15日初版発行

 

『アパルーサの決闘』→『レゾリューションの対決』から続く、凄腕ガンマンのコールとヒッチが活躍する西部小説です。娼婦となっていた昔の恋人アリーを捜し出したコールは、鉄道が開通して発展途上にあるテキサスのブリムストーンの町にヒッチと一緒にやってくるんですな。その町でコールとヒッチは郡保安官助手(デュピティ・シェリフ)となって働くことになります。町は酒場のオーナー一味と狂信的キリスト教団が力を誇示しており、町周辺には謎のインディアン戦士が出没しています。

前2作と比べると、登場人物の心理描写よりアクションに比重が大きくなっていて、銃撃戦の多い西部劇を観ている感じでした。スイスイと一気に読んでしまいましたよ。映画化してくれないかなァ。

 

『新東宝の軌跡』

コアラブックス:2009年10月25日発行

 

新東宝の作品76本を紹介したビジュアル本です。現在、“日本名画遺産”の名称で新東宝の50作品がDVD発売されており、それとのタイアップのような気がします。

新東宝は設立からわずか15年で消えていった映画会社で、その歴史をみると常に資金不足の状態だったんですね。テレビの影響で衰退していったのでなく、配給網の弱さに起因しています。

作品的にみると、大蔵貢の社長時代とそれ以前にはっきり分かれますね。新東宝の一般的イメージは大蔵時代のもので、それ以前には良質な作品が数多くありますよ。でも、私は大蔵時代のマイナー作品が好きで〜す。

 

『サヨナラ先生の映画歳時記(上・下)』(淀川長治:著)

SCREEN新書:2009年6月1日第1刷発行

 

月刊雑誌『SCREEN』に「さよならさよなら先生近況日誌」と題されて連載されていたもので、上巻は1969年から1973年までのものが掲載されています。メモ程度の内容なのですが、一言二言の映画寸評に淀長さんの味が出ていて楽しくなりました。

テレビの洋画劇場において、始めと終りに解説を入れるスタイルは淀長さんが確立して一般的になりましたね。1973年10月8日(月)〜14日(日)のテレビ欄を見ると、月曜洋画劇場(TBS:荻昌弘)『トコリの橋』、水曜ロードショー(日テレ:水野晴夫)『大空港』、木曜映画劇場(テレ東:?)『五人の軍隊』、金曜ロードショ−(フジ:高島忠夫)『シャラコ』、日曜洋画劇場(テレ朝:淀川長治)『バルジ大作戦』といった具合にね。

昼間の時間帯や深夜の時間帯にも、毎日、洋邦問わず映画放映されています。カットされたり、テレビサイズにトリミングされたものでしたが、映画好きには楽しみな番組でしたねェ。

読んでいて気づいたのですが、淀長さんは洋画だけでなく邦画もかなり観ているんですね。映画評論家なので当り前なんですが、淀長=洋画の先入観があって意外な気がしました。でもって、評価は辛口ね。“中学生だってもっとましな映画を作るであろう”、“企画よろしく出来上りはサンタン”、“これが映画かとあきれ果てる”、“こう大人げなく気どられると馬鹿げてくる”といった具合にね。私が全て未見の作品だったので、逆に観たくなりましたよ。

下巻は月刊雑誌『SCREEN』に連載されていた「さよならさよなら先生近況日誌」の1974年から1978年までのものが掲載されています。淀長さんは、新作映画だけでなく、日曜洋画劇場放映作品やイベントで上映される旧作も新作以上に再見していて、本当に映画好きなことがわかります。映画に全てを捧げたと言っても過言ではないですね

 

『日本史の黒幕』(会田雄次・小松左京・山崎正和の対談集)

平凡社:1978年12月25日初版発行

 

黒幕というのは、陰で権力を操るから黒幕なんであって、歴史に名が残ったら黒幕じゃないんですよね。三者ともそれは判っていて、事件の黒幕的存在から、参謀・閨閥・悪党・スパイなど幅広い範囲で黒幕像を捉えています。はっきりしているのは、大衆的人望のある人物は黒幕には決してならないということで〜す。

『愛燃える平原』(ナーン・ライアン:著、小長光弘美:訳)

MIRA文庫:2007年3月15日第1刷発行

 

インディアン保留地の美貌の女教師と混血のコマンチ族の族長の恋を描いたロマンス小説です。舞台が1875年のニューメキシコで、コマンチ族にはクアナ・パーカーのような混血酋長が実在しているので、西部小説として読んだのですけどね。

保留地司令官の娘が浮気女で、族長を誘惑するのですが相手にされず、乱暴されたと自分に惚れている大尉に告訴するんですな。司令官も副司令官も留守だったので、大尉は娘の言ったことを鵜呑みにして族長を捕らえ拷問します。女教師が族長を救出し、保留地から脱走して愛の逃避行ね。副司令官が事件の真相を究明してメデタシ、メデタシです。

ありふれた設定で目新しいことのない物語ですが、濃密なラブシーンを加えることによって、結構刺激的な作品になっていま〜す。

 

『スポーツマン佐助(全3巻)』(寺田ヒロオ:著)

マンガショップ:2009年10月15日初版発行

 

戦後、GHQの政策もあってブームになったのが野球でした。少年マンガの世界で最初の野球ヒーローは井上一雄の『バット君』らしいのですが、野球好きな少年の日常を描いた野球マンガは寺田ヒロオの『背番号0(ゼロ)』で完成したと私は思っています。

『背番号0』が連載されていた同じ雑誌『野球少年』に連載されていたのが『スポーツマン佐助』です。『スポーツマン佐助』は、少年野球の世界から、プロ野球の世界で活躍する野球ヒーローの先駆けとなりました。主人公は甲賀忍者15代目猿飛佐助でして、現役の忍術使い(忍者じゃないよ)なんです。霧隠才蔵(先祖は忍術使いだったが、今は普通の人)がプレイしている巨人に、ひょんなことから入団することになるんですな。

忍術を封印しても、守ればホームランをジャンプしてキャッチ、打てば敬遠のボールだってホームランです。それで、相手投手(阪神の小山なのだ)は敬遠するのにゴロを投げるんですよ。すると、それを打った佐助は内野ゴロ。だけど足が速いので、楽々セーフね。巨人はセリーグ優勝して日本シリーズで西鉄ライオンズと対戦。佐助がいるので当然巨人が優勝するはずなんですが、そうなると現実と違ってしまうので、佐助は出場できなくなります。野球の物語と並行して、石川五右衛門(佐助の師匠・戸沢白雲斎を倒して日本一の忍術使いになろうとしている)や、自雷也(佐助を倒すことを目的としている)や、ナフタリン(日本の忍法を盗もうとする西洋忍者)たちとの忍術合戦が描かれており、佐助はケガをしてしまうんですよ。

翌年は、シーズン途中に忍術修行から帰ってきて、今度は投手になります。魔球を投げるんですが、これが星飛遊馬の大リーグボール3号なんですよ。バッターが強振すると、空気の圧力でボールがそれて空振りするというやつね。バッターが投手だと振りが弱くてボールに当るので、魔球の秘密がわかるんですな。この年の日本シリーズは、佐助の活躍で巨人が3連勝するんですが、瀕死の師匠・白雲斎を守るために故郷の山へ戻ったために、巨人は4連敗して西鉄が優勝したのです。

主人公を無敵のスーパー野球ヒーローにしたため、野球物語に限界がきて続けることができなくなったみたいですが、後年の『スポーツマン金太郎』で完成しましたね。そして、『ちかいの魔球』、『黒い秘密兵器』、『巨人の星』といったプロ野球魔球ヒーローに大きな影響を与えたと私は思っていま〜す。

  

『戦国合戦辞典』(小和田哲男:著)

PHP文庫:1996年2月15日第1刷発行

 

応仁の乱から大阪夏の陣までの大小140余りの合戦が紹介されているのですが、有名どころはすっ飛ばして、信長登場以前の合戦と地方の小さな合戦だけを拾い読みしました。大田道灌が活躍した頃の合戦なんて小説やドラマには出てきませんからね。それと、「長岡城の戦い(安藤愛季VS浅利則祐)」等の東北の大名たちの合戦もね。

戦いの背景・経過・結果がコンパクトに纏められていて、戦国時代に興味のある人には役立つ本です。こんな本を読むと、またぞろ戦国シミュレーションのゲームがしたくなりま〜す。

『京都見廻組』(黒鉄ヒロシ:著)

PHP研究所:2003年12月10日第1刷発行

 

市川崑がそのまんま映画化した『新選組』の続編のようなマンガです。新選組に比べて見廻組はあまりに知られていないので興味を惹かれました。旗本御家人で組織されているので、新選組のような単純な組織構造でなく、責任者が色々代わっていることと、清河八郎や坂本竜馬を斬った佐々木只三郎が中心人物としているのですが、肖像画も写真も残っていないのでイメージがふくらまず、メディアの世界では傍に追いやられた感じになっていますね。黒鉄ヒロシは丹念に調べて書いており、マンガというより確かに歴画で〜す。

 

『絵で見る幕末日本』(エメェ・アンベール:著、茂森唯士:訳)

講談社学術文庫:2004年9月10日第1刷発行

 

エメェ・アンベールは、1863年4月に日瑞修好条約締結のために来日したスイス時計業組合会長で、江戸・長崎・京都・鎌倉など幕末の日本各地の様子を見聞し、エッセイとスケッチを残しました。

この本には彼の挿画140点が掲載されており、絵を見るだけのつもりが文章も拾い読みしてしまいましたよ。幕末から明治初期に日本にやってきた欧米人は好奇心が旺盛で、日本社会や風物を偏見持たずに描写しているので好感が持てます。

イザベラ・バードやゴードン・スミスの本と並べておこう。

 

 

 

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