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『対談・笑いの世界』 朝日新聞社:2003年9月25日第1刷発行 桂米朝と筒井康隆の“笑い”を中心とした対談集です。二人の対談そのものが“笑い”ですけどね。 歌舞伎役者や芸人の名前がポンポン飛び出すので下段は注釈スペースになっています。芸人については注釈を読む必要はなかったのですが、歌舞伎役者については注釈のお世話になりました。 ところで、サブカルチャー世界での常識がどんどん狭くなっている(昔は、講談・浪曲・歌舞伎の名文句は誰でも知っていた)ので、パロディが通じなくなっているのは事実ですね。パロディなんて原典を知らないと笑えないのですから、パロディ映画の解説に原典をどんどん紹介するのは正解でしょうね。自分だけが知っていて、一人で笑う優越感がなくなるのは残念ですけど。 そういえば、私が子供の頃、“遅かりし由良之助”とか、“お釈迦様でも気がつくめえ”とか、“こいつは春から縁起がいいわい”といった歌舞伎の名セリフを覚えたのは、テレビを通じてでしたね。子供番組にも歌舞伎が原典となるセリフが結構使われていましたよ。現在、そんな番組となると……? |
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『海賊船幽霊丸』(笹沢左保:著) 光文社:2003年10月25日初版発行 『小説新潮』に連載されていたものを著者が亡くなり、森村誠一が最終章を補筆して単行本化したものです。 来島水軍の残党が、秘かに建造されていた海賊船を駆って日本を脱出し、東南アジアの海でイスパニアやポルトガルの軍船相手に大暴れ。海賊小説というのは、少ないだけに大いに楽しめましたね。徳川幕府の鎖国政策により日本は300年の太平の世を過したのですが、積極的に海外進出していたら東南アジアに確固たる基盤を築いていたような気がします。 |
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『アメリカ人はバカなのか』(小林至:著) 幻冬舎文庫:2003年4月15日初版発行 戦後の日本はアメリカの中産階級の豊かな社会を手本に経済成長を遂げたのですが、最近の日本はこの本に書かれているようなアメリカの悪いところばかりをマネしている感じですね。“日本人はバカなのか”と言いたくなります。 広がる所得格差、骨抜きにされた労働組合、富裕層だけが得する税制、二極分化がもたらした治安の悪化・もはや悪弊でしかない陪審員制度・世界一高い医療費・公立学校は暴力とドラッグの巣窟など、私が危惧している方向に日本もドンドン向かっていますよ。日本はアメリカの10年後を行くと云われていますが、現実になりそうだァ。 |
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『卑弥呼伝説』(井沢元彦:著) 実業之日本社:1995年6月30日初版発行 密室殺人に絡めて、邪馬台国と卑弥呼の謎について言及していく歴史ミステリーです。密室トリックについては独創的なものでなく、トリック集に出ているものを応用しただけ。メインは歴史ミステリーなので殺人事件はおざなりです。 でもって邪馬台国と卑弥呼の謎ですが、卑弥呼は中国音でヒムカと読み、卑弥呼の後継者である台与はトヨと読むという解釈から、邪馬台国がヒムカとトヨの国ということで日向から豊(豊前・豊後)を支配していた連合国家という新説を出しています。狗奴国に攻撃され、おりしも日蝕が起こったことから巫女の権威を失って卑弥呼は殺されたとのこと。う〜ん、納得感があるなァ。 著者は邪馬台国が東征して大和朝廷を建てたという説をとっており、古事記に出てくる天照神話にも言及しています。なんと天照大神が女でなく男だったとさ。天照大神が天の岩戸に隠れた時、アメノウズメがストリップ・ダンスをするんですが、女の裸に興味を持つのは男というのがその理由。何故、男から女に変わったかというと……、興味のある人は本書を読んでください。 ところで、日本が出てくる最初の記録は漢書(弥生時代前期・紀元前)で、そこには「海をはるかにへだてたむこうには倭人がいて、百あまりの国々に分かれている」と記されています。後漢書・東夷伝になると、「建武中元2年(57年)、倭の南端に位置する奴国から貢物を持った使者がやってきて光武帝から印綬が与えられた」とあり、金印が志賀島から発見されたことから奴国は博多付近にあったというのが現在の通説ですが、疑問なのは、博多は日本の南端ではないこと。 3世紀になると、魏志倭人伝により邪馬台国の存在が明らかになりますが、場所は不明です。3世紀後半から4世紀になると、近畿を中心に巨大古墳群が登場。大和朝廷と呼ばれる王権なのですが、その成立過程は不明です。8世紀にまとめられた古事記と日本書記の中で大和朝廷が日本を統一していく経緯が語られていますが、史実としての信憑性となると疑問。5世紀になると、宋書により日本には“倭の5王”と云われる大王が統治して、中国に朝献していたことがわかるのですが、“倭の5王”がどの天皇にあたるか明確になっていません。とにかく、5世紀までの日本史は推理小説の世界なので〜す。 |
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『宮本武蔵伝説』(別冊宝島編集部:編) 宝島社文庫:2001年12月8日第1刷発行 井上雄彦の『バガボンド』が評判となり、その関連で刊行されたことが読んでいて感じました。メインとなっている、第2章:武蔵・伝説の17番勝負、第3章:武蔵の嘘と本当、第5章:最強兵法・二天一流に迫る!は、全て宮田和宏氏の協力によるものですね。宮田和宏氏の武蔵研究本といっても過言ではないです。 二天一流を過大評価している気がしますが、氏井弥四郎や塩田浜之助との試合は知らなかったなァ。 表紙イラストは横田ひろみつ。 |
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『ホメロスを楽しむために』(阿刀田高:著) 新潮文庫:2000年11月1日第1刷発行 ホメロスの“イリアッドとオデッセイ”(正しくはイリアスとオデュッセイア)をやさしく解説しています。だけど、著者の『ギリシア神話を知っていますか』と比べると、今イチ面白くなかったですね。登場人物がうまく整理されていない感じで、読みづらさがありました。 オデュッセイアの部分は知らないことが多いので真面目に読みましたが、トロイ戦争を扱ったイリアスの部分は知っていることも多くて、跳ばし読みしてしまいましたよ。著者の文章そのものは読み易いんですけどね。 |
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『旧約聖書を知っていますか』(阿刀田高:著) 新潮文庫:1999年6月5日第10刷発行 旧約聖書の中の断片的な事項については映画などを通じてある程度知っていましたが、体系的なものはこの本が初めてでした。著者も本書で語っていますが、信仰を持たない著者による、信仰のない読者へのわかりやすい解説書になっています。 本書はアダムとイブからでなく、イスラエル建国の祖であるアブラハムから始まっています。旧約聖書は、天地創造→アダムとイブ→カインとアベル→ノアの箱舟→バベルの塔→アブラハムの放浪となるわけですが、“バベルの塔”で神の怒りにふれた人間は世界中に散らばって言語や肌の色を異にするようになり、その中からアブラハムが神に選ばれて現在のイスラエルの地を目指すんですね。その後、ソドムとゴモラ→モーゼの十戒→ジェリコの城壁→サムソンとデリラ→ダビデとゴライアス→ソロモンとシバの女王と続いていくわけで、やっと流れが解りましたよ。イスラム教とキリスト教の源流が同じということもね。どちらにとっても神から与えられた土地なのだから、パレスチナ紛争は一朝一夕には片付かないや。 |
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『荒野のホームズ』(スティーヴ・ホッケンスミス:著、日暮雅通:訳) ハヤカワ・ミステリ:2008年7月15日初版発行 主人公はホームズに心酔するカウボーイです。ワトソン役は本書の語り手でもある主人公の弟ね。胡散臭い牧場に雇われたカウボーイ兄弟が、牧場で起こった事件を推理し、解決するわけです。 牧場の支配人が牛のスタンピードにより判別もつかないほどのグチャグチャの死体で発見され、牧場のオーナー一家がイギリスから視察にやってきて、今度は黒人カウボーイの死体が密室状態の屋外便所で発見されます。 犯罪トリックはありふれたものですが、19世紀末の西部を舞台にしたことがユニークですね。カウボーイ生活の描写などは、完全に西部小説ですよ。アメリカではシリーズとして長編4作が刊行されており、日本でも2作目が刊行予定とのこと。今から楽しみにしていま〜す。 |
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『日本の朝鮮文化』(司馬遼太郎・上田正昭・金達寿:編) 中央文庫:1982年3月10日初版発行 編者が中心になって行なわれた九つの座談会が収録されています。“古代の日本と朝鮮”や“神話と歴史”など興味を持った4つの座談会は既に読んでいたので、未読の5つをね。 日本文化の源泉は中国にあるのですが、文明伝播の経路において朝鮮半島の役割と文化的影響が座談会を通じて明らかになっていきます。古代史を考える上で、大いに役立ちま〜す。 |
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『イタリア人の拳銃ごっこ』(二階堂卓也:著) フィルムアート社:2008年10月21日初版発行 1960年代に一大ブームを巻き起こしたマカロニウエスタンについて論評した本です。小難しい理屈でなく、作品を通してマカロニウエスタンがどんなものか、わかりやすく解説されており、マカロニに興味を持っている人にはお薦めですね。 スペイン製とイタリア製の違いについて言及したのは、この本が初めてじゃないかな。『続・夕陽のガンマン』を評価していないのは、リアルタイムでマカロニファンとなった世代特有の現象?で、読んでいて口元が緩みましたよ。 熱烈なマカロニファンは、リアルタイム世代よりもテレビ放映でマカロニを観た世代に多くて、著者も“あとがき”で書いていたように、違った観点からの分析をして欲しいですね。特に音楽面からのね。1960年代のブームにはテーマ曲の大ヒットが背景にありましたからねェ。 |