2008年度読書録


 

『おちおち死んでられまへん』(福本清三:著、聞き書き:小田豊二)

集英社:2004年4月30日第1刷発行

 

15歳で東映京都撮影所の大部屋俳優となり、日本で一番有名になった大部屋役者さんといえます。時代劇全盛が今でも続いていたら、平凡に東映で定年を迎え、陽の目を見ることはなかったでしょうね。とにかく、継続することが大事です。それと、人柄ね。

この本は、福本氏の会話体で書かれているのですが、他人を魅了するものがあります。先日(5月2日)の『密命 寒月霞斬り』でも榎木孝明を相手に素晴しい立回りを見せていました(バッタリ倒れる最後は、ケガをしないようにヨロヨロ倒れてもいいんじゃないかと個人的には思いましたが、斬られ役者としての自負がそれを許さなかったのですね)が、時代劇のレベル維持のために今後も見事な斬られぶり見せてくださ〜い。

『雪明かり』(藤沢周平:著)

講談社文庫:2008年2月20日第8刷発行

 

表題作の他に、7つの話が収められた短編集です。「冤罪」や「雪明かり」のような下級武士の話も余韻が残ってよいのですが、「穴熊」や「暁のひかり」のような無頼の町人を主人公にした物語も、山中貞雄の映画を観ているような情感があってグッド。

『最終都内版』(島田一男:著)

講談社ロマンブックス:1969年4月4日第1刷発行

 

処分されずに残してある私の本箱から再読。NHKの人気ドラマだった『事件記者』の原作というより、『事件記者』を基にした推理小説です。

東京日報の山崎記者を主人公にして、長谷部・八田、タイムスの矢島、日日の岩見、捜査1課の村田部長刑事とテレビでお馴染みのキャラクターが登場します。

「女を殺した」という電話が東京日報に入り、指定された場所に行くと女のバラバラ死体があるんですな。被害者はキャバレーのホステスと判明しますが、第2のバラバラ殺人事件が発生します。犯人は変態か、秘密他言の心理か、八田老は別の理由がありそうだと呟き……

 

『風よ、大地よ、幌馬車よ』(関口治:著)

キング・ベアー出版:1998年2月5日初版発行

 

約100日間かけてアメリカ中西部のオマハからソルトレークまでの1800キロを幌馬車で旅するというアメリカ西部開拓者追随の旅に参加した日本人一家の旅行記です。

幌馬車の旅というとロマンを感じさせますが、トイレも風呂も不便で、食事も不味いなんて、私は御免ですね。この手の旅行は、本かテレビで味わうに限ります。

それにしても、家族の絆を深めるには、物の豊かな都会生活では無理なのかもしれませんね。心の豊かさを捨てて、物の豊かさを選んだのが現在の日本なんですから。

『西部劇に強くなる本』

雑誌『少年』1962年8月号の付録

 

34ページしかない薄っぺらいもので、資料として役立つものではありません。むしろ、何じゃコリャ、といった内容です。

“保安官の拳銃は、いつでもポケットに入れられるように軽く小さくできていた”なんて、子供の頃100%信じていたんだよなァ。同じピースメーカー(コルトSAAね)でも、キャバルリは騎兵隊専用、アーティラリーは砲兵専用、シェリフモデルは保安官専用で、普通の人が持っているのがシビリアンだと思っていました。銃身の長さによる総称だと知ったのは、ず〜と後のことで〜す。

『鉄人ルー・テーズ自伝』(ルー・テーズ:著、流智美:訳)

講談社α文庫:2008年5月20日第1刷発行

 

1995年にハードカバーで発売されたのは知っていたのですが、読みたいと思いながら機会がなかった本です。何故か今頃文庫本化されたのは嬉しかったですね。

現在ではショー的要素の強いプロレスですが、テーズがデビューした頃はシュートの世界だったことがわかりました。ダブル・リストロックで相手の骨を折るなんて現在のプロレスでは考えられませんからね。ヘッドロックだけで相当のダメージを与えていたんですよ。テレビ時代になって、地味な関節技では観客が喜ばないため、見せる要素が大きくなっていったんですね。テーズの必殺技バック・ドロップがテレビ向けから始まったなんて初めて知りました。全盛期のテーズがクロコップやヒョードルといった現役格闘家と闘ったら、決め技はダブル・リストロックになると訳者は予想していますが、納得できま〜す。

『やくざと抗争(上下巻)』(安藤昇:著)

徳間文庫:1993年11月15日第1刷発行

 

感化院から予科練、そして敗戦後、学生愚連隊から安藤組結成・解散までの半生を描いた自伝です。殆どが実名なのですが、横井事件は仮名を使っています。東洋郵船の横井英樹が南洋商船の中井秀麿といった具合にね。発刊当時は横井英樹が存命だったからでしょうね。

“事実は小説よりも奇なり”といいますが、地元ヤクザやテキヤ集団との、斬られたら斬りかえす、殺られたら殺りかえす、といった血みどろの抗争は映画の世界以上で〜す。

 

『映画のわかる本』(水野晴郎:著)

広済堂:1976年8月31日初版発行

 

水野晴郎(76歳)さんが亡くなったので再読。水野さんは『史上最大の作戦』や『夕陽のガンマン』などの邦題の名づけ親ですが、この本の中でも邦題作りについて語っています。

『チキ・チキ・バン・バン』は、原題の車の走る音を英語で表現した「チティ・チティ・バン・バン」を日本人の語感にあわせて変更したとのこと。『地底探険』は「探検」と「冒険」をミックスして“探険”に、『007危機一発』は武器が刀でなく銃なので“一髪”でなく“一発”にしたそうです。

『真夜中のカーボーイ』は“カウボーイ”が本当なのですが、車のリズム感を出すために、あえて“カーボーイ”したとのことで、原題をそのまま邦題にするのでなく、映画を観てもらうための工夫がされていますね。

 

『渥美清』(堀切直人:著)

晶文社:2007年9月15日初版発行

 

著者自らが関係者に取材した渥美清論でなく、既存の文献から抽出した渥美清論です。あとがきにあるように引用文のモザイクといった内容の本です。

著者は私と同じ昭和23年生まれ、渥美清を知ったのはテレビからというのも同じですね。渥美清に関する実体験がないのですから、評伝を書く方法としてはこういうやり方になるでしょうね。ポイントを選び出して一つの結論に結び付けていくのは団塊の世代の得意とするところで〜す。

ちなみに、表紙画像のイラストは南伸坊。

『歌謡曲はどこへ行く?』(阿子島たけし:著)

つくばね舎:2005年3月10日初版発行

 

“流行歌と人々の暮らし”とあるように、昭和20年〜40年の歌謡曲と大衆の関わりについて書かれたものです。全体の2/3が昭和20年代に費やされているのは、それだけ大衆の生活と密着していたからでしょうね。

「お富さん」のヒットとパチンコ産業の急増が関係していたとは知らなかったなァ。「お富さん」の軽快なリズムがパチンコ店の景気づけにマッチし、客たちの耳に残ったこともヒットの一因としてあったようです。パチンコ帰りのお父さんが「お富さん」を歌いながら帰宅すると、それを聞いていた子どもたちも意味もわからず「お富さん」を歌うようになる。“粋な黒塀、見越しの松”なんて、何のこっちゃ。

昭和30年代は浪曲からポップスまで全てのジャンルの音楽性を歌謡曲が包括していた歌謡曲全盛時代ですが、早い話、大衆が音楽的には低レベルで本物の良さを知らなかっただけなんですね。子供から大人まで満足させた歌謡曲が現在は演歌だけになったのは、若者を中心に音楽レベルがアップし、歌謡曲だけではその多様性を満足できなくなったからでしょう。逆に現在は狭い範囲でしか音楽を楽しめなくなっていますけどね。著者は大人が共感を持つ歌謡曲作りを音楽関係者に求めていますが、利益優先の現代社会にあっては……

 

 

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