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『チャップリンを撃て』(日下圭介:著) 講談社ノベルス:1986年9月5日初版発行 1932年5月15日、犬養毅首相が射殺される。“五・一五事件”ですな。陸海軍革新派の将校たちが起こしたテロ事件で、首相官邸にやってきた三上卓海軍中尉に対して、「話せばわかる」と犬養首相が制止しますが、「問答無用」の一言で射たれてしまいました。ちょうどその頃、来日していたチャップリンが“五・一五事件”に巻き込まれそうになって、生命の危険があったことは、彼の自伝に書いていて有名な話です。 これはチャップリン暗殺計画をテーマにした小説ですが、事実の面白さの前に、フィクション部分に深みがないのが今イチです。だけど、軍部独裁へと傾斜していく昭和初期の状況を知るのには役立ちま〜す。 |
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『天下の旗に叛いて』(南原幹雄:著) 新潮文庫:1992年9月25日第1刷発行 1440年(永享12年)4月から1年に亘る結城合戦を描いた歴史小説です。結城合戦というのは、6代足利将軍・義教に反乱して倒された関東公方・足利持氏の遺子・安王、春王、永寿王を庇護した結城氏朝・持朝父子と足利幕府軍との戦いです。結城軍1万に対して幕府軍10万で、1年も持ちこたえたことは歴史に残るでしょうね。 小説では義のための勝算なき戦いとして描いていますが、当時の武将が勝ち目がなくて兵を挙げるか、私としては疑問です。将軍・義教は、人一倍自尊心が強く、気短で暴慢な性格のため、叛心を持った武将が多くいました。結城氏朝は、もっと自分に味方する武将がいると予測したんじゃないですかね。義教は結城合戦勝利の祝宴を赤松邸で開き、その席上で赤松満祐に殺されているんですから。おかげで、唯一生き残っていた持氏の遺子・永寿王は、その騒動にまぎれて処分されずにすんでいます。永寿王は後に古河公方・成氏になりま〜す。 |
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『神霊の国 日本』(井沢元彦:著) ワニ文庫:2003年1月5日第8刷発行 井沢史観はわかりやすく、私も概ね同意しています。表題と異なり、日本人の神と霊について記しているのは第1章だけで、あとは織田信長を中心とした戦国時代論になっています。 “運も実力のうち”と云いますが、豊臣秀吉の生涯は真にそうですね。信長の家来になり、桶狭間で信長が今川義元を破っていなかったら、明智光秀が叛逆しなかったら、信長と一緒に死んだ信忠に嫡子がいたら、生き残った信長の息子・信雄と信孝が毛利の兄弟(吉川元春と小早川隆景)のように仲良かったら、その一つでも“たら”でなかったら天下取りができたかどうか…… |
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『沈んだ船を探り出せ』(クライブ・カッスラー:著、中山善之:訳) 新潮文庫:1997年12月1日初版発行 アメリカ史に名を残す沈没した艦船の史実と探索を綴ったノンフィクションです。 ダーク・ピットが活躍するNUMA(国立海中海洋機関)は小説の世界だけでなく、原作者のクライブ・カッスラーが実際に設立しているんですね。 |
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『五稜郭残党伝』(佐々木譲:著) 集英社文庫:1994年2月25日第1刷発行 旧幕府軍の脱走兵と追撃する新政府軍との戦いを描いた冒険小説です。ブックカバーの表紙が気に入って読む気になったのですが、解説で荒山徹氏が書いていたように、これは西部劇の世界ですね。 ただラストが気に入らないんですよねェ。娯楽小説は史実に忠実なことより、後味がよくないといけませ〜ん。 |
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『バッド・ガールズ』(トニー・ターツ:著、地主寿夫:訳) ブルース・インターアクションズ:2006年5月1日初版発行 246人のB級女優をロビー・カードやスチール写真で紹介した本なので、読了といっても読み物はアンジー・ディキンソンへのインタビューだけなんですけどね。アンジー・ディキンソンは、B級西部劇『レッド・リバーのガンマン』が気に入っているようです。従来の西部劇のヒロインが“ハンカチを振って別れを告げる”飾りにすぎない女だったのに対し、この作品のヒロインは自己主張の強い女で、役を楽しめたと語っています。 それにしても、アンジー・ディキンソンって典型的なB級女優ですね。ジャンルを問わず、やたらと出演本数が多く、演技は巧くもなければ下手でもない。美人だけどバタクサイ美しさで、一流女優が持つ洗練された美しさはありません。だけど、私はB級女優が好きなので〜す。 |
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『ジンギス汗は義経だった』(白戸五十八:著) 叢文社:2000年3月1日初版発行 ジンギス汗=義経というのは、日本人のロマンをかきたてるものですが、著者の夢想の世界に終わっており、小説としては人物描写や背景描写が稚拙で物足りません。だけど、私はこの手の法螺話が大好きなので一気に読んでしまいました。 ところで、何故こんな伝説が出てくるかというと、“義経生存説”というのがあって、義経は平泉で死なずに蝦夷に渡ったという伝説が根強く残っているんですね。そして、蝦夷に渡った義経は、平取のアイヌ伝承によると「ホンカン様は黄金の鷲に乗ってクルムセの国に行った」とあるんですよ。ホンカン様が判官を指しているのか、クルムセの国がモンゴルを指しているのか、客観的証拠はありません。 一方、ジンギス汗の歴史を伝える史書として、“元朝秘史”と“集史”があるのですが、モンゴル統一までは口伝に基づいたもので、客観的事実に乏しいんですね。それで、ジンギスはゲンギス=源義経からきているといったような詭弁を弄すれば如何とでも解釈できるわけで〜す。 |
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『時代劇ここにあり』(川本三郎:著) 平凡社:2005年10月1日初版発行 590ページの大冊ですが、意外と時間をかけずに読めました。文字が大きかったことと、川本さんの文章の平易さによるものでしょうね。紹介されている91作品中、私の未見のものが7作品ありました。テレビで放映された時に見逃さないようにメモしておこう。 紹介作品中、東映作品が少ないのは、組織に属さない孤独な一匹狼が好きな著者の好みによるものでしょうね。様式美に彩られた東映時代劇にも一見の価値があるんですけどねェ。 |
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『黒頭巾旋風録』(佐々木譲:著) 新潮文庫:2005年6月1日第1刷発行 天保年間の北海道(蝦夷)を舞台にした時代小説です。西部劇タッチだった『五稜郭残党伝』を読んで、明治以前の北海道を舞台にした著者の小説に興味を持ちましてね。黒装束に黒マスクで目の部分を覆った主人公が、東蝦夷を統治する松前藩の勤番役人や悪徳商人からアイヌを助けて活躍する物語で、結末も爽やかだし、時代劇全盛の頃だったら、すぐに映画化されたでしょうね。 巻末の逢坂剛氏との対談で著者が“北海道ウエスタンシリーズ”の5冊目と語っていますが、その内容と主人公のスタイルから、私は西部劇というより『快傑ゾロ』を思い浮かべました。アメリカでは、『快傑ゾロ』は西部劇のジャンルに入っているので、西部劇といっても間違いではありませんが…… |
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『映画元ネタ大全集』(大滝功:著) ぶんか社:2004年8月1日初版発行 “大全集”の名が恥ずかしくなるようなチーピーな内容です。はっきり言って著者が思いついたままに故事付けただけですね。「そういえば似たようなシーンがあったよな」程度で、論理的裏付けのないものです。2時間強で気楽に読み飛ばしました。 ところで、デ・パルマ作品が、“シベリア超特急”が元ネタになっていると例証していますが、どちらも過去の作品からネタにしたと思いますよ。何しろ監督が映画評論家の水野晴郎さんですからねェ。 |