2006年度読書録


 

『ガルボ、笑う』(エリザベス・ヘイ:著、柴田京子:訳)

文春文庫:2004年7月10日第1刷発行

 

題名の由来は“ガルボ、笑う!”というコピーで宣伝された『ニノチカ』からきています。笑わないスターと云われたグレタ・ガルボが大笑いしたことが珍しくて、作品の宣伝に利用されたんですね。

でもって、小説の方ですが題名と何の関係もありません。映画ファン(それもクラシック映画ファン)にとっては楽しめる小説ですが、そうでない人には面白さを味わうことはできないでしょうね。この題名は、“クラシック映画ファンだけがわかる小説”というような意味合いを持っているのかもしれません。西部劇が『リオ・グランデの砦』しか出てこないのが不満ですが、ミュージカルが色々出てくるので是としましょう。

『沈黙部隊』(ドナルド・ハミルトン:著、山下諭一:訳)

ハヤカワ・ポケット・ミステリー:1966年5月15日第3刷発行

 

高校時代に一度読んだきりの本です。ディーン・マーティン主演で映画化され、日本で公開されたのが66年の6月でしたから、映画が目的で読んだような気がします。

映画を観た時は、原作との大きな違いに驚いたのですが、記憶に残っていたのは映画の方でした。オープニングであえない最期をとげるシド・チャリスが良かったですからねェ。

『山田長政の秘宝』(和久峻三:著)

角川文庫:1987年11月10日初版発行

 

ルームメイトが誘拐され、犯人は茶箱を盗み出すように要求してきた。茶箱には二つの生首が入っており……

生首の謎と、第二の茶箱から出てきた山田長政の埋蔵金の在処を示す暗号解読がメイントリックです。トリックよりも、私は山田長政の逸話の方を楽しみましたけどね。そういえば、山田長政を主人公にした歴史小説って、読んだことがないなァ。

『極悪商法天誅読本』

KKベストセラーズ:1999年11月1日発行

 

キャッチセールス、アポイントメント商法、霊感商法、マルチ商法、ねずみ講、かたり商法、催眠商法、展示会商法、ネガティブオプション、原野商法、電話勧誘資格商法、内職商法、架空請求商法と、“世に悪徳商法の種はつきまじ”ですね。

騙される人は、手を変え、品を変えて何度でも騙されるようですから要注意。最近話題の偽装建築も、99年時点で注意を呼びかけています。一戸建てを購入する時は、建売は避けて、割高になっても設計・監理・施工を個別に依頼した方が確実ですね。大手業者といっても安心できませ〜ん。

『マエタケのテレビ半生記』(前田武彦:著)

いそっぷ社:2003年6月30日第1刷発行

 

テレビ創生期から、テレビに関係してきた著者だけに面白い話がイッパイです。日本テレビの『茶の間のリズム』という番組で、17歳の女子高生だった三田佳子が司会していたなんて知らなんだ。

そういえば、家族全員が“茶の間”に集まってテレビを見ることがなくなりましたねェ。子ども・父ちゃん母ちゃん・爺ちゃん婆ちゃんと、世代の異なる視聴者が一つの番組を見ていたので、誰が見ても面白い番組が昔はありました。

誰が見ても面白い番組作りは、逆に誰が見ても面白くない番組になる恐れがあるので、知的レベルを最低にあわせた、まともな日本語が話せず、下品な態度や冗談だけを売り物にする番組が増えてくるんですね。テレビは文化事業なんだけどなァ。

 

『大江戸生活体験事情』(石川英輔・田中優子:著)

講談社文庫:2002年3月15日第1刷発行

 

時代劇を観る時に役立てば(映画の間違いを見つけて指摘するのが目的)と思って読んだのですが、江戸時代の人が不便な生活をしていると考えていたのが間違いと気づきました。不便と感じるのは現代人の主観で、当時の人にとっては不便なんかじゃないんですね。ある面では現代人より合理的な生活をしていますよ。江戸人が現代にきたら、逆に不便を感じるでしょうね。

300年の経済成長率が5%に満たない江戸時代と、大量にエネルギーを消費している現在では、はるかに江戸時代の方が地球に優しい生活をしていま〜す。

『こんなものいらない辞典』(朝日ジャーナル:編)

新潮文庫:1988年12月20日第1刷発行

 

テレホンカード、洗濯指数、社内行事など現在ではすっかり衰亡したものもありますが、訪問販売、バレンタインデー、すぐにやせる広告なんてェのは、未だに衰亡する気配は見えませんね。人の弱みや欲望につけこむモノは、形を変えて生き続けるんでしょうね。

ところで、テレビを見ていて、一番いらないと私が思ったのは芸能レポーター。芸能レポーターというからには、芸能人の芸についてレポートしろよ。やっているのはゴシップばかりで、ゴシップレポーターと名を変えた方がいいねェ。

『武士道』(新渡戸稲造:著、岬龍一郎:訳)

PHP文庫:2006年2月16日第5刷発行

 

映画『ラストサムライ』で話題になって、未読だったので読みたいと思っていた本です。何で訳者がいるかというと、海外向けに英語で書かれた本なんですね。世界の民族の多くは宗教による教えを人生の行動規範にしていますが、日本人は宗教との結びつきが薄く、国際社会において誤解されやすい体質があります。そんな中で、“武士道”による行動規範は世界に誇れる哲学であり思想ですよ。現在の日本は拝金主義の傾向があり、今こそ“武士道”を見直す時です。

 

『完本・美空ひばり』(竹中労:著)

ちくま文庫:2005年6月10日第1刷発行

 

映画が好きで、その関連としてスターについて書かれたものをよく読むのですが、対象への迫り方に2タイプありますね。

ひとつはスターに密着してその本質に迫るやり方で、もうひとつは関係者の証言を中心にして本質に迫るという方法です。本書は前者のタイプで、美空ひばりとの付きあいを通して、美空ひばりの芸と、昭和という時代と、戦後民主主義の欺瞞を見事に論じています。

『悪役レスラーは笑う』(森達也:著)

岩波新書:2005年12月15日第3刷発行

 

私はリアルタイムでグレート東郷のファイトを見た年代なので感慨が深かったです。初来日当初は外人側について力道山を痛めつけていたのですが、途中から日本人側になりましたね。力道山のファイトに惚れて、日本人の味方になるというのは最初からの演出だったようです。吸血鬼フレッド・ブラッシーとの血みどろファイトは、テレビを見ていた老人がショック死したことで話題になりましたねェ。

 

 

表紙へ  目次へ  次ページへ