2010年度読書録


 

『隠された帝』(井沢元彦:著)

祥伝社:1994年12月1日第2刷発行

 

天武天皇による天智天皇暗殺という新説を大胆な推理で展開する歴史推理小説です。

「扶桑略記」の“天智消失説”を元ネタに、自説に都合のよい資料によって論理展開しているのですが、納得感があるんですよ。書紀に天武天皇(大海人皇子)が初登場してくるのが43歳と遅いため、高句麗のヨンゲソムンが天武天皇になったというトンデモ説がありますが、天智天皇の兄弟でなかったというのは信憑性がありますね。

著者は天武を皇族以外の新羅シンパ(天智は新羅の謀略によって暗殺された)のひとりという説をとっていますが、私は天皇権の確立や勢力の長となる声望や地位を高めたのは、皇族のひとりと考えるのが自然のような気がします。暗殺というのも……???

 

『日本神話の起源』(大林太良:著)

徳間文庫:1990年2月15日初版発行

 

『古事記』『日本書紀』『風土記』で伝えられる日本神話を、朝鮮・中国・東南アジア・モンゴル・オセアニア・シベリアに伝わる神話を収集し、比較することによって、日本民族・日本文化の起源と系統をたどっています。

日本は外からの諸文化がはいってくるだけの“行き止まり”地域で、多種多様の要素が混成して一体となった文化を作り出したと云われており、日本へのルートとしては、北方(樺太・シベリア・沿海州)ルート・朝鮮ルート・東シナ海ルート・沖縄ルート・南洋ルートがあって、それらの地域の神話が日本神話を形成したことは納得がいきま〜す。

『おとぎ話に隠された古代史の謎』(関祐二:著)

PHP文庫:2008年9月17日第1刷発行

 

対象としているおとぎ話は、「浦島太郎」「竹取物語」「一寸法師」「因幡の白兔」「桃太郎」「鶴の恩返し」「天の羽衣」などですが、そのどれもが、邪馬台国やヤマト建国につながっているというトンデモ本です。はっきり言ってムチャクチャなこじつけなんですが、分かっていて読めば、それなりに楽しめます。歴史資料としてはパスね。

 

『シンシナティ・キッド』(リチャード・ジェサップ:著、真崎義博:訳)

扶桑社ミステリー:2001年3月30日第1刷発行

 

映画を観て知っているので、登場人物のイメージがどうしてもそれに重なりますね。小説は、マックィーンがチューズデイ・ウェルドやアン・マーグレットの相手をする幕合劇を省いた極めてクールな内容となっており、イメージの重なりは読む上でプラスになりましたけどね。

作者のジェサップは、別名でスパイ小説も書いており、小説版『秘密諜報員ジョン・ドレイク』が彼の手によるものとは知らなかったなァ。

『日記をのぞく』(日本経済新聞社:編)

日本経済新聞社:2007年11月15日第1刷発行

 

平安時代から現代までの25人の著名人の日記を紹介しています。ただ、原本ではなく現在出版されている本からの紹介ね。例えば、朝日文左衛門の『鸚鵡籠中記』は神坂次郎:著の『元禄御畳奉行の日記』からの引用となっています。何しろ原本は200万字の膨大なものなので、一般人が読むのは無理ですからね。25人の日記の中で、私が読んだことがあるのは、『元禄御畳奉行の日記』の日記だけでしたが、的を射た紹介文になっていましたよ。

日記の魅力というのは、記述者の日々の生活を通して、記述者の愚痴やら批評やら思想が語られていることと、その時代の社会環境がわかることです。私が特に興味を持ったのが食事情ね。“食”ついての記述のない日記はない感じで、正岡子規の日記には、「朝:雑炊3椀 佃煮 梅干 牛乳1合ココア入 貸しパン2個、昼:鰹のさしみ 粥3椀 みそ汁 佃煮 梨2つ 葡萄酒1杯、間食:芋坂団子あん付3本・焼1本 塩煎餅3枚、晩:粥3椀 なまり節 キャベツのひたし物 梨1つ」とあります。物書きには、食いしん坊が多いのかなァ。

 

『一度も植民地になったことがない日本』(デュランれい子:著)

講談社+α新書:2007年11月2日第9刷発行

 

ヨーロッパ人の日本についての誤解や思い込みについて語っています。ところで、日本は一度も植民地になったことがないのはもちろん、侵略されたこともないんですよねェ。世界とは異質の国民体質を形成したのは、それに由来するのかもしれません。

この本の内容とは全然関係ないのですが、日本が何故侵略されなかったのか、色々考えてみました。それは、四方を海に囲まれた地理的条件もありますが、世界でも有数の人口をまかなえた国力にあると思いますよ。一時的に侵略できても、圧倒的人数で反撃されたら支配困難になりますからね。元寇で神風が吹かなくても、蒙古軍を撃退できたと私は考えています。

 

『手塚治虫』(桜井哲夫:著)

講談社現代新書:1994年5月27日第7刷発行

 

手塚治虫の人生を追いながら、作品にこめられた意思を解析しています。例えば、晩年の『ルードウィッヒ・B』の中の、「新人というのは、自分で一番書きやすい作品をイソイソと持ってくる。だが、こちらからこういうものを書けというテーマを与えると、たいてい書けずに閉口する。そこがその新人の実力なんだ」というセリフは、すべて自分で、原作・脚色・作画をこなしてきた手塚自信の誇りが表れているんですね。それと、編集者の要求に応えて作家主義と商業主義のはざまで仕事してきたプロとしての自負ね。

手塚治虫といえば、『鉄腕アトム』なんですが、手塚自身は「駄作だ、金儲けの作品だ」とみなしていたそうで、『ジャングル大帝』を一番気に入っていたようです。だけど、私も著者と同様に、『ジャングル大帝』はあまりにディズニー的で、それほど優れた作品とは思えないんですよ。カラーによるテレビアニメは、映像がキレイだったことぐらいで、動きが稚拙であっても、『鉄腕アトム』の心に訴えかけてくるものが多かったですね。

手塚マンガを読み、手塚アニメを観ていた世代にとって、手塚研究の手引きとなる好著で〜す。

 

『アメリカ・インディアンの歴史』(富田虎男:著)

雄山閣:1999年7月5日第3版2刷発行

 

本の帯に書かれている通り、米インディアンの正当な歴史的役割を評価し、勝者のつくりあげた歴史像の虚偽を追及した好著です。

西部開拓時代の平原インディアンの悲劇よりも、イギリス植民地時代から独立戦争・南北戦争の期間に土地を奪われ、多くの部族が消滅した東部インディアンの方が犠牲が大きかったことや、セミノール族というのが昔からフロリダにいた固有の部族でなくイギリス植民地軍やアメリカ合衆国との戦いに敗れて南下してきたクリーク族の一部であることを知ったのがこの本でした。

セミノールというのは、マスコウギ語で“逃亡者”なんだよ。それと、18世紀前半までにフロリダ地方の先住インディアン(ティムークア族やカルサ族等)は、奴隷狩り戦争で全滅しているんですね。基本的に米インディアンは性善説思想だったために、性悪説の欧米人によって滅ぼされた感じです。騙すより騙される方がバカという欧米の思想はイヤだねえ。

 

『キネマ旬報(2007年10月上旬号)』

 

映画評論家や作家など42人が選出した西部劇ベストテンが載っていたのですが、結果は1位『荒野の決闘』・2位『ワイルドバンチ』・3位『リオ・ブラボー』・4位『明日に向かって撃て!』・5位『真昼の決闘』・6位『駅馬車』『シェーン』『許されざる者(92)』・9位『赤い河』『捜索者』となっており、妥当なところといえます。

個々のベストテンを見ていくと、納得できない作品が結構ありますね。佐藤忠男氏が選んだ『人生の関所』や、山田和夫氏の選んだ『メイトワン1920』なんて、知識のひけらかしのような気がしますし、『情け無用のジャンゴ』や『腰抜け二挺拳銃の息子』を選んだ人の見識眼を疑います。有名作品ばかり選ぶのも退屈ですが、奇をてらいすぎるのもねェ。

 

『英国テレビの大逆襲』(岸川靖:編)

洋泉社:2009年1月19日発行

 

英国ドラマの事情について纏めたムック本です。巻末の総ガイドリストをながめたら、観たことのある作品が意外に多かったのに驚きました。殆どが米ドラマだった昭和30年代でも英ドラマを結構観ていましたね。『ロビン・フッドの冒険』(リストに表示なし)、『ウィリアム・テル』、『キャプテン・ドレイク』、『第三の男』、『セイント』、『秘密諜報員ジョン・ドレイク』などね。

最近でも、BSで放送された『プライミーヴァル』、『魔術師マーリン』、『華麗なるペテン師たち』は欠かさずに観ていました。CATVでも『フロスト警部』、『バーナビー警部』、『孤高の警部ジョージ・ジェントリー』は、よく観ています。サスペンス&ミステリーにおいては、英国ドラマが一番優れていると思いますよ。登場人物のキャラ設定がしっかりしており、一筋縄ではいかない脚本が魅力ですね。美人女優が少ないのが難点で〜す。

 

 

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