2010年度読書録


 

『バガボンド33』(井上雅彦:著)

モーニングKC:2010年5月27日第1刷発行

 

殺し合いの螺旋を降りて無となった武蔵が、もう一度本当に強い相手と戦いと心に決めるんですな。そして、次号は小次郎の居る小倉へ。吉川英治の武蔵とは異なる別次元の井上武蔵の世界が展開していきます。巌流島の決闘が、今から待ち遠しい〜。

 

『マカロニ・ウエスタン銃器熱中講座』(蔵臼金助:著)

彩流社:2010年7月30日初版発行

 

役者の顔より手にしている銃器を、銃砲店や保安官事務所のシーンではケースの中の銃器や壁に架かっている銃器ばかりを注視している著者なので絶対的信頼がおけるのです。マカロニ・ウエスタンに登場した銃器を懇切丁寧に解説しているだけでなく、作品についても愛情豊かに評価していますね。ところどころサイレンス・タッチ(著者を知る人だけがわかる)があって、口許がゆるみますよ。

マカロニ・ウエスタン銃器となっていますが、基本的には西部開拓期に実際に使われた銃の解説(コルトSAAついてこれほど詳しい解説を私は他に知らない)にもなっていて、西部劇ファンも必見です。写真画像も豊富なので、私のカルトな楽しみに非常に役立ちま〜す。

 

『伊丹万作エッセイ集』(大江健三郎:編、伊丹万作:著)

ちくま学芸文庫:2010年6月10日第1刷発行

 

演技論や映画論が、固苦しい文章でなく、ユーモアを散りばめてわかりやすく表現されています。シナリオ時評は、私が観た映画は殆どないのですが、観ていなくてもその作品のポイントがわかりますよ。批評の中に人生哲学が含まれ、伊丹万作の人となりが分かったような気がしました。

バラバラに発表されたエッセイを、関連項目ごとにまとめ、編集した大江健三郎の気持ちも納得できま〜す。

『孤剣』(大藪春彦:著)

徳間書店:1967年1月15日初版発行

 

市川雷蔵が主演した『赤い手裏剣』(1965年・大映/監督:田中徳三)の原作本です。4話からなる連鎖時代小説で、この中の「町荒らし」と「掟破り」が映画の原作になっています。映画の方は、手裏剣対ブーメランの決闘といった西部劇タッチでしたが、小説の方は、主人公は手裏剣を使わず、ブーメランの使い手(南原宏治)も登場しません。

“首のなくなった三人の体が横転し、地面を流血で濡らしていく”といった大藪春彦らしい表現であふれていますが、内容は普通の時代小説で〜す。

『震える山』(C・J・ボックス:著、野口百合子:訳)

講談社文庫:2010年4月15日第1刷発行

 

“MWA賞作家のベスト作品にして米国ミステリーの頂点。現代のウエスタン!”の惹句に釣られて購入したものです。主人公はワイオミング州猟区管理官で、同僚の自殺により、彼が担当していたノース・ジャクソンン地区に赴任になります。担当地区はジャクソンの街からイエローストーン国立公園まで続く4900平方キロの広大なエリアで、馬での移動が不可欠なグランド・ティートンの山岳が大部分を占め、大自然を背景にした真に西部劇の世界です。

主人公は、検死結果に不審を抱き、自殺でなく殺人と考え、単独で捜査を開始します。そして、自分も何者かに命を狙われます。イエローストーン国立公園から逃げ出した熊(グリズリー)の保護や、鹿(エルク)の密猟者との対決など、猟区管理官としての任務も並行して描かれ、さらに、本筋とは直接関係ない留守宅(主人公は単身赴任)での事件もあって、多層構造のミステリーとなっています。複数の事件が並行して描かれるのは、テレビドラマでも見られ、ミステリーの最近の主流ですね。シリーズ化(既に9冊発表)されているので、次刊も読みたいで〜す。

 

『PEACE MAKER(5巻)』(皆川亮二:著)

ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ:2010年5月24日第1刷発行

 

1巻で登場したゴードン・ヘッケルが再び登場ね。ホープを倒しにスカイタルコスの町にやって来たのですが、タル教徒とカンサス教徒の戦いに巻き込まれて、ホープたちと共闘することになります。特製ガトリングガンを小脇に抱えての連射は、ジャンゴの如し。

ピートは、タル教徒の傭兵隊長となっている師匠のバーンズと再会し、バーンズスタイルの伝承者として認められます。ポールは、バーンズを決闘で倒した兄のコールと再会。ニコラの秘密もわかり、アースバウンド計画の謎をめぐって次巻への続きとなりま〜す。

バーンズスタイルというのは相手に対して横を向いた姿勢で急所を隠し、抜き射ちする方法(画像参照)なんだけど、最初から向かいあってるのならいいけど、西部劇の決闘のように町の端から互いに歩いてきて射ち合う時はどうするのかなァ。

 

『またまたサザエさんをさがして』(朝日新聞be編集グループ:編)

朝日新聞社:2007年11月30日第1刷発行

 

毎週土曜日の別刷りに連載されていて、最近は少しタネ切れの感がありますが、私の好きなコラムです。今や、完全に消えた風物や、あっても稀少な存在となっているものを懐かしんでいます。「ぬかるみ」「駅の伝言板」「校庭の映画会」「ちんどん屋」「蚊帳」「デパートの大食堂」「チクロ」「寝台車」「順法闘争」「湯タンポ」「火鉢」「集団就職」など、若い人に話してもピンとこないでしょうね。「火鉢」なんか、自殺の道具としか思っていないのでは……

 

『TVドラマが好きだった』(岡田恵和:著)

岩波書店:2005年6月7日第1刷発行

 

脚本家の視点から書かれたTVドラマ論です。時代劇やアクションドラマについてでなく、朝ドラ・トレンディ・ホームドラマといった日常世界を描いたドラマ作りについて語っています。普通の人間の普通の生活の中の波風を描いたドラマより、特殊な人間の特殊な出来事をリアル性を持って描いたドラマの方が私は好きなので、題名は知っていても、著者が例にだしたドラマの大部分を私は観ていないんですよねェ。「なるほど、そんなものか」という感想しかありません。

映画は監督によって作品の良し悪しがでてきますが、TVドラマは脚本家の力に負うところが大きいのは当っていますね。それと、キャラの魅力ね。登場キャラに人気が出て、その影響で脚本が変化していくこともTVドラマの特長で〜す。

 

『小沢昭一・芸能者的こころ』(文藝別冊)

河出書房新社:2010年6月30日初版発行

 

小沢昭一についての著名人32人のエッセイは、結婚式の祝辞みたいなもので、面白味はありません。だけど、大竹まこととの対談や、藤本義一や妻木松吉とのトークショーは面白かったです。映画にしてもテレビにしても、軽薄短小のものばかりになっていますが、視聴者の見るレベル、想像するレベル下がっているのは事実ですね。レベルの下がった視聴者にあわせて、作品や番組を作っていくのだから、みんなバカになる。日本人は衆愚の塊となって、この先どうなっていくのだろう。それにしても、小沢昭一は稀才だ。

 

『GUNバトル』

リード社:2010年11月29日第1刷発行

 

映画に出てきた100挺の銃器について解説・紹介しています。西部劇に関する記述が少ないのは、商売上、仕方ないでしょうね。それにしても、それらが全てモデルガンとして販売されているとは驚きですよ。

私が西部劇に興味を持ったのが、テレビで西部劇がガンガン放送されていた50年前。西部劇ブームとともにガンブームとなり、雑誌は特集を組んだり別冊を発行して、やたらとモデルガンの通信販売が目立ちました。1960年から玩具の自由化に伴い、輸入品のニコルス、マテル、ヒュウブレーなどが大人たちの人気を集めましたね。子供を対象にした国産のトイガンと比べて精巧でしたからね。

日活アクションや劇画の影響で、ワルサー、ルガー、コルト、ベレッタといったオートマチック拳銃もおもちゃ化され、1961年にブームは最高潮に達しました。その頃でも、モデルガンの種類はそんなに多くなく、例えば、この本に記載されているコルトM184ウォーカーなどが当時販売されていたら西部劇ファンの垂涎の的になったでしょう。当時と比べると購買層は極めて狭くなっていますが、好きな人には良い時代だと思いま〜す。

 

 

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