2007年度読書録


 

『女優男優』(関川夏央:著)

双葉社:2003年4月15日第1刷発行

 

女優12名・男優17名・監督1名に関しての考察とインタビューによるコラムです。それに、映画『秋津温泉』を通して見た“昭和30年代”についてのエッセイが全体の1/4を占めています。深く突っ込んだものではありませんが、ところどころに呻らせられるものがありますね。中でも、“クセと個性は違う”という田村高廣の意見には納得。

「昔はクセをきれいにして、それから個性を身につけるのに何十年もかけた。最近は邪魔だったはずのクセが個性だといわれる。クセが個性なら楽ですよ。でも壁につきあたったら迷うよね。錯覚なんだから」

『カレンダー世界史』(柴田三千雄:編著)

岩波ジュニア新書:1982年11月22日第1刷発行

 

パラパラめくって読む。この手の本は、最初からじっくり読む必要はありませんからね。でもって、9月10日の史話は「ザンジュの乱勃発」なのだ。

869年にアッバース朝時代の南イラクで黒人の農業奴隷(アラビア語ザンジュ)が反乱を起こしたんですな。反乱軍は勢力を拡大し、一時は南イラク一帯を支配下に収め、鎮圧までに14年間もかかったそうです。

アッバース朝はウマイヤ朝を倒したイスラム帝国として記憶の片隅にありますが、“ザンジュの乱”なんて知りませんでしたねェ。項目を見ていくと、私の知らない史話が結構ありま〜す。

『江戸の事件簿』(加太こうじ:著)

立風書房:1979年6月1日第1刷発行

 

最初からじっくり読んだわけじゃなく、家康の江戸入城から東京改称までの江戸で起こった60の事件を綴った史談の中から興味深いものだけを読みました。

映画でお馴染みの、町火消しと相撲取りの喧嘩は、“め組の喧嘩”として史実にあるんですね。1804年1月16日、芝神明の境内で興行中の相撲と町火消しの若い者が大喧嘩をしたんです。事の起こりは、相撲見物にきた“め組”の若頭・辰五郎が小屋に無料入場しようとしたところ、相撲取りが断ったんですな。当時の慣習として、興業物は土地の鳶職の世話になるので顔パスが許されていたんですよ。それを断られたものだから、辰五郎は芝居小屋へ行って水茶屋の女を張り合っていた九州山の悪口を言ったら、ちょうど芝居小屋にきていた九州山が怒って手近にいた“め組”の若者を殴り、喧嘩が開始。鳶の者と力士が境内に駆けつけてきて乱闘となり4時間におよぶ大喧嘩になったわけです。南町奉行所の捕り方がやってきて、30数人もの逮捕者が出ました。今までフィクションだとばかり思っていましたねェ。表紙に使われている錦絵は、“め組の喧嘩”だと思います。

 

『五匹の用心棒』(大藪春彦:編)

山王書房:1967年9月10日発行

 

『南から来た用心棒』とコンビになっているノベライズ本。大藪春彦は監修をしているだけで、小説化したのはゴーストライターです。発売時に購入して所持していたのですが、以前、実家で探したけど見つからず、悔しくて再度ゲット。

ガンマン・シリーズ第一弾とあるのですが、第二弾は発行されていません。マカロニブームが続いていた頃なんですが、本で読もうなんて誰も思わなかったのですかねェ。

『トニー谷、ざんす』(村松友視:著)

毎日新聞社:1997年3月15日初版発行

 

マスコミ嫌いで、プライベートなことは一切語らなかったため、謎のところが多いのですが、関係者への取材や色々な資料をもとに、トニー谷の人物像を探り出しています。

団塊の世代にとってトニー谷といえば『アベック歌合戦』ですね。「あなたのお名前、なんてえの!」と、ソロバン片手に踊る仕種で問いかける姿は、出場者を小バカにしているんですが、そのアクの強さに視ている人も出場者も見事にのせられました。

アナーキーさで一時代を築いた1950年代前半の凄さが実感としてわからない(現存している主演映画を観る限りではピンとこない)のですが、その真髄が時代にマッチしたアドリブ芸にあったことは、60年代の『アベック歌合戦』の記憶からも理解できま〜す。

 

『放送禁止歌』(森達也:著、デーブ・スペクター:監修)

解放出版社:2001年4月18日第7刷発行

 

放送禁止になる歌というのは、セックス・暴力・差別が表現されたものということになるらしいのですが、この本では差別(それも部落問題)を中心に展開されています。その多くはメディア側の過剰反応で自主規制されているんですね。意思を持って放送していないから、クレームだけを恐れる結果となっているんです。

ところで、「竹田の子守唄」が放送禁止歌になっているとは知りませんでした。初めて聴いたのは大学時代で、これを歌った赤い鳥のメンバーと同じように、「五木の子守唄」と同じ九州地方(竹田市)で生まれた子守唄だと最初思っていましたよ。大学が京都で、“部落問題研究会”に知人がいたことから、京都・伏見の竹田と知ったのですけどね。でもって、これは子守唄でなく守子唄。子守する少女の労働歌なんです。「五木の子守唄」も守子唄で、この本を読んで初めて知ったのですが、これも放送禁止歌になっています。

放送禁止歌のリストが掲載されていたので、「放送禁止歌全集」という私家盤CDでも作ってみようか……

『赤いグラスのいい出逢い』(総合企画:1997年11月30日初版発行)

牧野昭一:著

 

アイ・ジョージと志摩ちなみのデュエット・ヒット曲「赤いグラス」を作曲した牧野昭一が、交際した人たち(24人)との思い出・エピソードを綴ったものです。

著者が作曲した「山の湖」を「夕陽の丘」にそっくり似せて作ったと語っていますが、言い訳のような気がしますね。当時、誰かに盗作と言われたんじゃないかなァ。

この手の本は、100%信じることはできませんが、色々推測する楽しみはあります。例えば、日本テレビから田宮二郎に主演のオファがあったというテレビドラマ『三十三階の男』は、後年、中丸忠雄主演で放映された『37階の男』じゃないかな。都会派アクションには、田宮二郎はピッタリですからね。資料性はともかくとして、朝日ソノラマの製作話とか、昭和30年代を懐かしむことができて、満足で〜す。

 

『ピンナップ』

タッシェン・ジャパン:2002年9月30日第1刷発行

 

“ピンナップ”というのは、壁にピンでとめる女性の写真で、アメリカの独身男にとってはお馴染みのものです。金髪のグラマーというのが約束事で、1950年代まではピンナップ・モデルやピンナップ女優が男性に人気を集めていました。

『ピンナップ』は、「Beauty Parade」や「Eyeful」といった雑誌(日本でいえば、「実話情報」とか「週刊実話」のような雑誌)の表紙やグラビアに使われたピンナップ写真やイラストを掲載した本です。その一枚一枚に時代性を感じさせてくれましたよ。

 

『西部劇バッチリ』(田中英一:著)

KK・ロングセラーズ:1976年7月4日初版発行

 

西部劇に関するハウツー本です。1.ガン(拳銃)、2.保安官・騎兵隊、3.駅馬車、4.カウボーイ、5.無法者、6.西部の女傑、7.西部の戦い、8.開拓の英雄、9.インディアン、10.西部の食事、11.西部の歌、12.西部の宗教・人種、13.アメリカの旗、14.西部劇ベスト、15.西部劇の名匠、16.西部劇スターという内容で、これを読んだだけで、西部劇の通として薀蓄を語れますよ。

ランドルフ・スコットの西部劇を、新東宝時代のアラカンのチャンバラ映画と同列においていたのには、思わず手を叩いてしまいました。

西部劇というとマカロニを無視する識者が多い中にあって、西部劇スターとして、ジュリアーノ・ジェンマとフランコ・ネロを紹介していたのも好感がもてま〜す。

『ジェシー・ジェームズの暗殺』(ロン・ハンセン:著、上岡伸雄:監訳)

集英社文庫:2007年12月20日第1刷発行

 

1983年に発表された著者のデビュー2作目です。ブラッド・ピット主演で映画化され、2008年1月に公開が決まったので慌てて翻訳された感じですね。

上岡伸雄氏を含む4人が分担して翻訳し、上岡氏が最終的に訳文のチェックと文体の統一を図って出版されており、訳文が全体的に粗いのは否めません。はっきり言って読みづらいです。西部劇の好きな私としては楽しみながら読みましたが、ジェシー・ジェームズ(西部劇でお馴染みの伝説的物語)を知らない人にとっては面白い小説とは思えません。

著者のデビュー作『Desperados』も実在した西部の無法者・ダルトン兄弟を扱った西部小説らしく、読みたいと思いますが、ジョニー・デップあたりの主演で映画化でもされないかぎり翻訳されることはないでしょうねェ。

 

 

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